被害者支援コラム

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大切な命を守る全国中学・高校作文コンクール入賞作品の紹介(愛知県内受賞者)

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 警察庁では毎年、大切な命を守る全国中学・高校作文コンクールを開催しています。
 応募資格は、「命の大切さを学ぶ教室」を受講し、若しくは多様な機会(身近に経験したり見聞きした事件・事故、非行防止教室の受講等)に大切な命を守ることについて考えるなどした全国の中学又は高校生(原則として現在も在学する生徒)となっています。

→参考 令和7年度の応募要領 https://www.shien-aichi.jp/topics/event/post_20.html

 令和7年度は、高等学校の部で、名古屋たちばな高等学校(名古屋市中区)の石﨑愛唯さんが「審査委員奨励賞」を受賞されました。その優秀作品を紹介します。

 横断歩道で右折のトラックにひかれそうになった体験をもとに「命の大切さ」を呼びかける、力強い作品です。

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一瞬の出来事が教えてくれた命の重さ 名古屋たちばな高校 二年・石﨑愛唯(いしざきあい)さん
 
 「命を大切にしましょう」と言われても、普段の生活の中でそれを深く意識することはあまりありませんでした。毎日学校に行き、友達と話し、家に帰る。そんな当たり前の繰り返しの中で、私は「生きていること」がどれほど尊いのかを考えることはほとんどありませんでした。けれどある日、ほんの一瞬の出来事が、私の胸に命の重さを強く突き付けてきました。「このままでは死ぬかもしれない」と思った、あの時の恐怖は、今でもはっきりと心に残っています。
 それは、ある日の夜、二十時ごろの事でした。私は用事を終えて、帰宅するために交差点を渡ろうとしていました。信号は青に変わったので、何の疑いもなく横断歩道を歩き始めました。ところが、その瞬間、私の目の前を大きなトラックが猛スピードで右折してきたのです。私は一歩足を踏み出したところで立ち止まりました。ほんの数センチ先を、トラックが風を切って通り過ぎていきました。運転手は私の存在にまったく気付いていないようでした。「死ぬかもしれない」と思ったのは、人生で初めてのことでした。心臓が一気に高鳴り、足が震えました。その場に立ち尽くしながら、私はただ恐怖に呑まれていました。あと一歩踏み出していたら、私はこの世にいなかったかもしれない、そう思うと頭が真っ白になりました。
 その出来事のあと、私はしばらく交差点を渡るのが怖くなりました。でもそれ以上に、心に強く残ったのは「自分はこの世に一人しかいない存在なんだ」という実感でした。これまでの私は、どこかで「自分なんていなくなっても、、、」と考えていたこともありました。しかし、もし本当にあのとき命を落としていたら、きっと家族も友達も、先生も悲しんだに違いありません。私が思っている以上に、自分の存在は誰かにとって大切なのだと、あの瞬間に気づきました。それ以来、「命は当たり前のものではない」と言う考えが、私の中でしっかりと根を張りました。朝起きて、学校に行って、誰かと笑いあえる。その日常こそが、実はかけがえのない奇跡なのだと、心の底から思うようになったのです。
 私の体験は偶然の事故でしたが、世の中には、交通事故や事件・犯罪によって、大切な命を奪われてしまう人が少なくありません。ニュースで、加害者の不注意や身勝手な行動で命を奪われた人の話を聞くたびに、胸が痛みます。残された家族や友人は、突然の別れに深く傷つき、その悲しみを抱えながら生きていかなければなりません。そうした人たちが少しでも心を回復させられるよう、私たちが支えていくことがとても大切だと思います。「大切な命を守る」ということは、ただ危険を避けることだけではなく、お互いを思いやり、支え合う社会を作ることでもあると思います。犯罪や事故の被害者となった人の苦しみを知り、無関心にならず、声をかけたり、話を聞いたりすることも、命を守る行動の一つです。
 私は、命の重さを体で感じたからこそ、これからは自分の命も、より大切にしていきたいと思うようになりました。日常の中で誰かに優しい言葉をかけたり、困っている人に手を差し伸べたりすることは、ほんの小さなことなのかもしれません。でも、その積み重ねが、誰かの心を守り、命を守る力になると信じています。命は一人に一つだけしかありません。私たち一人一人がそのことを忘れずに生きていくことが、被害者の命を尊重し、これから起こり得る被害を防ぐ第一歩になるのだと思います。この作文を読んだ人にも、自分の命、そして他の誰かの命を、どうか大切にしてほしいと心から願っています。

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